Neighbors Complain

“LP”

A life like ice cream[LP]

全9曲収録

SIDE-A:
A1.Breathe Grace
A2.One’s First Love
A3.Creamy Dreamy Memory
A4.Departure
A5.Ice Cave

SIDE-B:
B1.Christmas Station
B2.Miacis
B3.Life
B4.In Your Heart

レーベル:VIVID SOUND
品番:VSLP4026
フォーマット:アナログLP
バーコード:4540399040264
価  格:¥4,000- +tax
2024.4.10 LP リリース

“A life like ice cream” ライナーノーツ

2023年12月24日。年の瀬に、Gotti全曲プロデュースのネイバーズ・コンプレインの新作が緊急リリース。
今、このアルバムに耳を傾ける皆さんにとっては、正にサプライズなクリスマスプレゼント。
シーズナブルアルバムの体裁を整えつつも、単なるクリスマスアルバムとしてだけでは論じられない、不思議な魅力を持った作品となった。

アルバム全編を通じてとても奥深いソウルへの愛が溢れるこの作品。
聞くごとに味わいを増していくこの新作をご紹介するその前に、一度、過去の彼らの話をさせて欲しい。
ご存知の通り、ネイバーズ・コンプレインは元々、ストリートでOto、Kash、Takaの三人で結成されたバンド。
元はサポートメンバーだったGottiが加わり今のネイバーズ・コンプレインとなったのが2014年のこと。
ギターのGottiは元々、Old Free Birdというニューオーリンズ色の濃いジャズファンクバンドで活動していた。
そのプレイスタイルは彼が敬愛してやまないDavid T WalkerやPhil Upchurchなど古きソウルのメロディカルなプレイスタイルに多大なる影響を受けていて、若手でこんなに枯れた音を出せる子がいるんだ、と感心した覚えがある。

その当時のOld Free Birdのオリジナルキーボードは今や飛ぶ鳥の勢い、ドリカムを初めとしたビックアーティストをサポートする半田彬倫だったのだが、芦屋の街フェスのライブの時だったか、半田が別スケジュールにて出演叶わず、サポートでやってきたのがOtoだった。
これがOtoとの最初の出会い。スワンプな(泥臭い)彼らのファンクサウンドにいきなりサポートで入り、順応する彼のプレイにも感嘆したが、その夜に開かれたアフターパーティーで弾き語るスティービーワンダーやマイケルジャクソンの楽曲での歌唱に魅了された。

その頃、私は本業のスポーツイベント制作の傍ら、友人が経営していたイタリアンレストランでイベントの制作を受けていて、その箱を本格的にイベント専門の店舗への転換を模索していた時期で、その箱こそが今や伝説のライブハウスとも言われるようになったGuittoneだ。
Old Free Birdの頃からGuittoneを本拠に演奏していたGottiがネイバーズコンプレインのサポートに入るようになり、ネイバーズが店を本拠として活動を始めるのは割と自然な流れだった。

当時の彼らは70年代ソウルから90年代後半のNeo Soulに至るまで幅広くカバーし、また旧知の音楽関係者やソウルやR&B好きなブレーンとなって頂ける方々にライブをみてもらい、徐々にその人気と、著名なシンガーのサポートなどに活動の幅を広げていく。
また、その頃も継続的に行っていたストリートライブで魅了されたファンの多くがお店に足繁く通うようになり、気がつけば会場はいつも超満員。

メジャーに出る前から、彼らはしっかりとソウル・R&Bのサウンドの土台をしっかりと築き上げていた。

その後の自主制作の作品を経てメジャーデビューする流れは皆さんのよく知るところ。
話をアルバムに戻そう。

Gottiのプロデュースと聞いて、正直にいうと、もっと彼のプレイが全面に出た作品になるだろうと勘繰っていた僕は肩透かしを食らった気分になった。
しかし何度かリピートを繰り返していくうちに実は、この作品の中に込めた彼のソウルミュージックに対する深い愛情を感じ知ることとなる。

彼のソロプレイが際立つのはインストのM5「Ice Cave」、オーソドックスな甘いクリスマスバラッドM6「Christmas Station」(本人はこれを某日本を代表するコーラス五人組に歌って欲しい!と言っていた。)、そして、オハイオとミネアポリスが融合したようなトークボックスをフィーチャーしたM8「Life」の後半部分くらいだろうか。80年代後半のファンクバラッドを彷彿させる「Life」はZAPPへの敬愛度を感じる前半部から一転、ドラスティックな曲の後半部分は曲調も相俟って、そのギタープレイからプリンスの「パープルレイン」を思い起こされて、感傷的になる程に素晴らしい。
なんせアルバムの幕開けを担うM1「Breathe Grace」からピアノ一本のバラッドなのだから、最初聞いた時の肩透かし感は半端ないのだが、「物語を開いて、ページをめくろう」というプレリュード的な歌詞でスタートするアルバムは、実は一つ一つの音色にも耳を傾けてみると、こだわりが細部に行き届く作品となっているのがわかる。

M2の「One’s Frist Love」は80年代のウイスパーズ辺りのクリスマスアルバムに普通に収録されていそうなオーソドックスなソウルマナー全開のコーラスとサウンドが堪らない。
ドリーミーなコーラスからのローファイなピアノリフの終焉で終わり、続くのがM3「Creamy Dreamy Memory」。
イントロがまんま70年代スウィートソウル。これがまた堪らない。楽曲本編はシンプルで爽やかな曲調の裏でGottiのギターがソウルフルに歌いあげているのが実にソウルを感じる一曲だ。
クリスマスアルバムの様相が一変するM4「Departure」はリズム、鍵盤のリフがデトロイトハウス。
これは尖った12inchリミックスを出せば売れるんじゃないかとも思う。要希望。 M7「Miacis」はグルーヴィーなファンク。
このアルバムの中で一番、トンがったオリジナリティな世界観を持つ楽曲。
後半に向けてどんどん変わる音の表情、色、温度感が癖になって何度でもリピートしてしまう不思議な1曲だ。
そして、アルバム最後に収録されたM9「In Your Heart」リトルアンソニーを彷彿させる60年代前半のドゥアップの影響下が残るソウルバラッドテイストのこの楽曲。
ヴォーカルはなんとGotti本人!!!甘茶ソウルに必要な要素、ヘタウマの極致。ネイバーズ・コンプレインでこんなベタなこの曲調をやる必要性は無いんじゃない、とも思ってしまうが、ソウルミュージックに対する多大なる愛情を集約したこの作品のエピローグを担う役割をこの曲に与えようとしたんじゃ無いかと思っている。
再度、最初から、もう一度、通して聞きたい、と思える絶妙な余韻を残して作品が終わるのだ。

なお、M8「Life」で彼らはグラミー賞にエントリーするようだ。グラミー賞にエントリーするにはレコード会社などで組織されたアカデミー(全米録音芸術科学アカデミー)の登録メンバーの推薦がないとエントリーが出来ないのだが、ツテを辿ってその一縷のチャンスの糸を手に入れた。
結果はどうであれ、世界の頂点を本気で目指そうとする彼らを応援していきたい。

そして、彼らがGuittoneで切磋琢磨していた10年ほど前とは業界の事情も一変して音楽はボーダーレスなコンテンツとなっている。
ジャンルもそれぞれ固定されたものじゃ無い自由な世界となった。

Gottiが加入して10周年を迎える来年は節目ともいえる。しっかりと経験と知識に裏付けられたネイバーズ・コンプレインの次の10年は正にボーダーレスな活躍が期待できるディケードになるのかもしれない。

単なるシーズナブルアルバムじゃ無いこのアルバムを、幾度も聞いて、音の空間に散りばめられた様々な味わいをこの年の瀬に是非、楽しんでください。

鈴木 康藏